第11話 夫の支え

年末にはようやくつわりも治まり、急にお腹が大きくなり始めました。
すると急に食欲が出てきて、年末年始と重なり食べ過ぎたようで、体重が急激に増加しました。
年が明け、一月七日の健診の時、

「双子の妊娠だからって、三人分食べたらいいというものではないのよ。ただでさえ安静で体を動かせないんだから、1200キロカロリーぐらいの食事を心がけなさい。妊娠中毒症になるわよ。」

と、先生に注意されてしまいました。

浮かれて少し油断したと反省した私は、栄養士だった叔母に相談し、1200キロカロリーのメニューが載っている本を貰いました。
それからは徹底してカロリーを減らし、食事内容もそれまで以上に気をつけるようになりました。
しかし、この時期はいつも空腹で、食事制限なんて今までした事のない私は、気を紛らわすのも一苦労でした。
けれど、この頃になると胎動を感じるようになり、子供が産まれた時の事を想像して、安静と言われながらも、結構そういう生活を楽しんでいました。

今思えば、この時期が一番呑気に過ごしていたと思います。

そんな気楽な時期は一ケ月ほどで終わり、妊娠六ヶ月になると、子宮の大きさが単胎妊娠の場合の八ヶ月ぐらいの大きさになりました。
すると、肩は凝り腰も痛くなって、横になってもお腹がつかえてなかなか寝る体勢が決まらないという様な状態になってきました。

そして一つ一つの動作もきつくなり、日常の家事をこなすのも大仕事でした。
そうこうしていると妊娠七ヶ月に入り、今度はお腹の張りが急に激しくなりました。
それは双子の妊娠の場合、定員一名の子宮の中に無理に入っているので仕方ないそうです。

しかし最低でも、子供の肺機能が出来上がる34週まではお腹の中から出さないほうがいいということで、病院で処方してもらった張り止めの薬を飲み始めました。
しかしあまり効果はなく、夜になるとパンパンに張って怖くなることが度々ありました。

主人は仕事で夜遅く帰るのがほとんどで、時には明け方に帰ってくる事もありました。
ですから、私は毎日ほとんど一人で過ごし、家事を一通りこなすと後は出来る限り横になるという生活を送っていました。
その頃の私は、何かする度にお腹が強く張るので、常に冷や冷やしていました。主人がいない時間が多いだけに、何かあった時の不安はいつも私の中にありました。
妊娠8ヶ月になると、薬の副作用で体調を崩し、食欲もなくなってきました。心配した主人は先生と相談し、

「入院はまだ嫌だ。」

と嫌がる私を半ば強引に入院させました。
やはり無理をしていたのでしょう。
入院すると、張りが少し治まりました。それに、いざという時先生や看護婦さんがいてくれるという安心感で、今まで何かあっても一人で対処しなければならないと、一日中あった緊張感がほぐれていきました。
しかし、入院した二日後には飲み薬では張りが治まらなくなり、点滴を打つことになりました。
点滴には二十四時間一定量保つため、機械がつけられていました。
それからは絶対安静です。食事とトイレへ行く時以外は、体を起こすことも許されませんでした。

入院した当初は体調が悪かったのですが、点滴を打ち始めると次第に元気になっていきました。
すると私は、急な入院で心配をかけた人達に連絡しなくてはとの思いから、安静といわれているにも関わらず、点滴片手に公衆電話をかけ始めました。
しかし、そこで先生に見つかり、

「あなたは安静の意味が分かっているの?本当はトイレだって行って欲しくないぐらいなのよ。」

と叱られ、渋々寝たきりの生活を再び送り始めました。
主人は、毎日仕事が終わると真っ直ぐ病院に来て、身の周りの物を届けてくれました。
しかし、面会時間にはなかなか間に合わない事も度々でした。
他の患者さんには見舞い客が来ている中、一人で寂しい思いもしましたが、先生の許してくれた消灯までの面会時間に間に合った時は、少しだけでも話して帰るという毎日でした。

消灯時間にも間に合わず、一日中誰も訪ねてこなかったという日も珍しくはありませんでした。
その様な中、入院中の妊婦さんと親しくなり、寝たきりで動けない私の所へ度々遊びに来てくれたり、友達や私の両親が何度か見舞いに来てくれたりしたことが、単調な入院生活の中で、心の慰めとなりました。

その頃、主人は本当に大変だったと思います。
朝は私の着替えを持って家を出て、仕事が終わると病院に直行したようです。
そして、消灯時間になると家に帰り、それから猫や鳥の世話、洗濯・掃除を済ませ、次の日の私の着替えを用意した後、ようやく眠りについたようです。

しかしその時の私は、夜になると主人がやって来るということが、一日一日の支えになっていました。
だから、主人が大変なことを分かっていながらも、「早く来て」と、訴え続けていました。
そんな私に、主人は嫌な顔一つせず、いつものように冗談を言っては笑わせてくれました。

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