第10話 双子

一日一日不安が募り、大きな不安で押し潰されそうになった私は、その不安な気持ちを日記につけてみることにしました。
すると、それはいつの間にか、まだ見えない子供達へのメッセージとなり、私自身の心の内を記すことで、私も少しずつ落ち着きを取り戻していきました。

妊娠反応が出て十七日目、ようやくエコーで二人の姿が確認されました。

「二人とも元気ですよ。」

この言葉がどんなにうれしかったことか!
子宮外妊娠の時の子は、人として扱われることなく死んでいったことが、とても哀れに感じたものでした。
ですから今回、お腹の子が初めて人間として認められた事がうれしくて、私は思わず涙ぐみました。
この日のことは、一生忘れられません。

「双子の妊娠は、つわりも危険も、一人の妊娠の時の二倍と思っていたほうがいいだろう。双子を産むということはとても大変なことだけど、産まれた時の喜びはきっと十倍になる。頑張れ!」

という先生の温かい励ましを胸に、私は元の総合病院へ通院する事になりました。
エコーに心臓が映った頃から、私のつわりは始まりました。毎日体はきつかったけれど、つらいと思ったことは一度もありません。
それは、吐くということで妊娠を実感できたからです。なんだか子供たちが、

「二人とも元気だよ。」

と教えてくれているような気がして、吐く度に心が満たされていくのを感じました。
けれど、食べ物をほとんど受けつけられなくなった私は、一・二週間に一度吐き気止めの点滴をしながら、何とか生活していました。
味噌、醤油、ご飯の炊ける匂いが全く駄目で、ご飯は洗面所を閉め切って炊きました。
すんなりお腹に収まってくれるのは漬物と氷菓子だけだったので、一日中ガムをかみ、どうしても吐き気が治まらない時は氷菓子と漬物を少しずつ食べました。
そんな状態ではありましたが、どんなに吐いても、きちんと三食食べることは心がけていました。

それは、食べられなくなると入院することになると、先生に注意されていたからです。それに、双子の妊娠は妊娠中毒症になりやすいということも聞かされていました。
その時、私の最後の生徒が受験前という事もあり、特に健康管理には気を配っていました。
その時は寒い時期だったにも関わらず、風邪一つひく事なく、双子の妊娠では必ず出ると言われていた貧血やタンパクも、ほとんど出ることはありませんでした。

結局、つわりは三ヶ月続き、体重は六キログラム落ちました。

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