第7話 決断

新たに通ったS病院。その日の検査は、紹介状のあったお陰で一日で終わり、その日のうちに結果が出ました。
それは

「子供を作るには体外受精しか方法はない。」

というものでした。
それも、子宮内膜症がかなり進行している為急いだほうがよいということでした。
結局、主人には全く異状がなく、不妊の原因は全て私だったということが明らかになりました。

医学の進歩は時に残酷です。
私は、主人に本当に申し訳ないと思いました。

『あんなに子供が好きな人なのに…。私と違う人と結婚していたら、今頃はわが子を抱いていたかもしれない。私と出会って結婚したばかりに…。』

いけないと思いながらも、そう思わざるを得ませんでした。
その頃主人は、

「子供はいらない。夫婦で仲良く生きていければそれでいい。」

と言っていました。

こういう主人の心遣いがありがたい反面、つらくもありました。
友達の子供と一緒に遊ぶ主人はとても楽しそうで、『私はこの人に、一生子供を作ってあげられないかもしれない。』と、申し訳ないという思いが、いつも私の頭の上に重くのしかかっていました。

体外受精という言葉を知らない人はいないと思いますが、体外受精をするか、夫婦二人だけの人生を歩むのか、いざ自分がそういう選択の場に立たされたとしたらどうでしょう。

もちろん、二人だけの人生についても考えました。
年々共通の話題も少なくなり、一緒にいてもテレビを見て笑うのが関の山。
日常生活を淡々と送り、二人で築く夢もなければ守るべき者もない。
一見幸せそうに見えますが、本当は寂しいものです。お互い好きなことをして楽しんではいましたが、楽しいのはその時だけで、時が過ぎれば虚しさが残ります。

自然の妊娠ができない─それは、私達は子供を持たない夫婦であるよう、運命づけられているということかもしれません。
その運命に従うのも一つの道です。
しかし私達は年老いた時、「あの時体外受精をしていれば…。」と、後悔だけはしたくありませんでした。
子供を授かる方法があるのなら、可能性のある限り努力する…。
これが私達の出した結論でした。

世間では、体外受精という言葉が一人歩きしているようですが、体外受精のことを一体どれだけの人が理解しているでしょう。ですから私は、体外受精で産まれた子供達は、そういう人工的な方法で産まれたことを知った時、コンプレックスを抱いたりしないだろうか、いじめにあったりしないだろうか…。
子供を授かった今も尚、そんな不安が心を過ぎることがあります。

さて、体外受精をするためには、現在保険適用外の為、莫大な治療費がかかります。
それに、一回すれば妊娠できるという確証もありません。
私は主人と相談し、以前にマンション購入の資金にでもするようにと、私の母から貰った指輪をお金に換えることを考えました。

マンションを買う時は、貰った物をお金にしてしまう事に抵抗がありましたが、今回は使わせてもらうことにしました。
早速母に事情を話し、了解を得て知り合いの貴金属屋さんに聞いてみると、今は宝石の価値が下がっているので、売らないほうがいいということでした。母の方でもあたってみてくれたのですが、やはり同じ答えでした。
途方に暮れていると、

「応援するから頑張りなさい。」

という、母からの申し出があり、悩んだ末、私達はありがたく好意を受けることにしました。
体外受精をしたくてもお金の都合がつかず、泣く泣く諦める人もいる中、本当に感謝しています。

そして私は、S病院で検査を受けた翌月には体外受精を始めることができました。
治療はS病院ですが、総合病院の先生にもいろいろな面で助けていただきました。

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